先輩移住者の声
いつ・どこから・なぜここに?
出身は東京都八王子市です。2019年2月末に山口市に移住する直前はフランスに住んでおり、建築事務所で都市デザインを手がけていました。日本に戻ったのは、仕事で書いた日本の過疎化問題についての論文で定義した解決策を、自分で実践してみようと思ったからです。全国にある日本の過疎地域の中で山口市を選んだ理由は、私が考える「人を呼び寄せるために必要な3つの条件」が全てそろっていたからです。その条件とは、気候が良いこと、災害が少ないこと、そして、観光の普遍的な要素となる歴史が深いことでした。まずは気候を考慮して温暖で穏やかな瀬戸内にすることを決め、さらに比較的災害が少ない岡山・広島・山口に絞りました。その中で、現代の日本を築くきっかけとなった場所、かつての長州藩である山口市が最も歴史が深いと考え、最終的に移住先に決定しました。山口市を訪れたときに見た、国宝瑠璃光寺五重塔に一目惚れしたのも移住を決めた理由の一つです。
縁もゆかりもない場所で新しく何かを始めるのは難しいですし、特に私の場合は目的が過疎化問題の解消だったので、まずは行政とパイプを作るのが必要と考えました。すると、ラッキーなことに、ちょうど山口市が地域おこし協力隊を募集しており、しかもミッションは「南部地域ニューツーリズム形成業務」だったのです。過疎化問題の解消には人を集めることが必須なので、観光誘客を目指すこのミッションはある意味、私の目的と共通していると言えます。これ以上ないぴったりな業務だと思い、すぐに応募しました。こうして、私は地域おこし協力隊として山口市への移住を実現させたのです。
ちなみに、地域おこし協力隊仲間の田中愛生さんとはフランスで出会いました。私の妻も含め3人で意気投合し、一緒に山口市に移住することを決めました。
地域おこし協力隊ではどんな取り組みを?
代表的なものを言えば、秋穂二島地区の一番南側にある美濃ヶ浜に、にぎわい創出を狙ったけん引可能な軽飲食店「Tiny Bar」を、同じく地域おこし協力隊をされていた田中さんと一緒に出店したことです。特徴は、田舎ならではの景色を利用した雰囲気づくりと、その名の通り、移動式であるということ。この出店により、それまで人が来なかった美濃ヶ浜に、1日100人くらいが足を運ぶようになったので大成功と言えると思います。ただ、人が集められるという実績を示したにも関わらず、これを模倣する店が現れなかったのは残念でした。もちろん、コロナ禍の影響が多少あるとは思いますが。私たちは一時的なものではなく、継続してにぎわいを創出したかったので、どんどん真似して欲しかったんです。でも、これが叶わなかったということは、私たちがうまく伝えられなかったということ。何かを始めるには、やはり高い発信力も必要なんだと痛感しました。
現在の状況・感想
任期を終えた今は、田中さんと一緒に合同会社を立ち上げ、お隣の萩市にある笠山展望台で「兀兀(こつこつ)」というカフェを運営しています。今年も夏はTiny Barを開く予定なので、そちらもぜひご期待ください。それとは別に自分の会社「BELLE EPOQUE」を創業し、建築関係の仕事もしています。兀兀のパースも私が手がけました。あとはYouTuberとして旅をテーマに動画を配信しています。外国人に「日本と言えば?」と尋ねると、大体の人が渋谷、新宿、大阪と答えるのをご存知ですか? もちろん素晴らしい都市ではありますが、私はのどかな田舎があることも知ってもらうために、バイクで山口市のいろんなところを巡って動画を配信しています。現在、撮影後にその場で動画編集ができるよう、バスを改造して移動式のスタジオを作っているので、今後はもっと本格的に取り組むことになると思います。この動画配信によって山口市だけでなく、私自身の認知度が高まれば、CGで山口市のまちをデザインした画像や動画を作って展覧会を開きたいです。「山口市はこんなふうに変われるんだよ!」というのを多くの人に伝え、一緒に過疎化問題と地域の存続について考えていけたら嬉しいですね。


山口に住んで戸惑ったことは?
戸惑ったというか、ショックを受けたことはあります。移住前、山口市の人は過疎化を問題視し、状況を良くするために悩んでいるものだと思っていましたが、実際に来てみると「何もしなくていい」「今のままがいい」って思っている人がほとんどだったんです。先のことは考えていないという現実を突きつけられました。日本には1799の自治体があり、その半数近くが消滅可能性都市と言われています。一つのまちが失われるということは、歴史と文化がなくなるということ。全部を残せとは言いませんが、残した方がいいまちは絶対にあるし、私は山口市は残すべきまちだと思っています。だから、たとえ今消滅可能性都市ではないとしても、今から何らかの対策をしておく方がいいと思います。
山口の魅力は?
移住の条件にした気候がいいこと、災害が少ないこと、歴史が深いことはもちろんですが、やっぱり自然の豊かさが一番の魅力だと思います。山口市は海もあって、山もある。つまり、マリンスポーツもロッククライミングもと、いろんなアクティビティが楽しめるんです。あとは魚の種類が豊富で安いのも魅力ですね。移住した当初、スーパーの魚がおいしくてびっくりしました。それと、私も妻もバイク乗りなので、道路がきれいな点も気に入っています。ほか、国宝瑠璃光寺五重塔や大殿エリアに残る古い建物やまち並みも山口市の宝ですし、今後も守り続けてもらいたいと思っています。
移住を考えている人・移住してきた人にアドバイスを
私はこれまで海外のいろんな土地に住んできた経験がありますし、やってみたいことが明確だったので移住に対する不安はありませんでした。妻と田中さんと一緒に移住したこともあり、割とスムーズに馴染んだんじゃないかと思います。もし、移住に不安を感じているのなら、地域おこし協力隊になるというのもアリだと思います。行政とつながっていられますし、協力隊同士のネットワークもあるので、不安は軽減されると思いますよ。創業したい方にも山口市はおすすめです。都会にはあって山口にはないものがまだまだたくさんありますので、新しいことに挑戦するにはぴったりのまちだと思います。